いなさゴルフ倶楽部
グリーンキーパー 塩澤 暢一氏
いなさゴルフ俱楽部は名匠・加藤俊輔氏が手がけた魅力的なコースで敷地内には天然温泉も有する。1998年の開場だが、2015年3月にはプレイヤーの満足度をさらに高めるためにコース・リニューアルを実施した。ここのコース管理を取仕切るのはグリーンキーパーの塩沢暢一氏。塩沢氏は大学の農学部で造園を学び、卒業後に同ゴルフ俱楽部に就職した生え抜きで、開場時よりコース管理にたずさわる。コースコンディションを最もよく把握するひとりであり、情報収集と研究を怠らない努力家である。
減農薬の環境で健やかな芝作りを進めるための試行錯誤
いなさゴルフ俱楽部は浜松市の北部、いなさ湖にほど近い山あいに位置しているが、この立地ならではの特殊な事情がある。
「浜松市などの水道用水の水源でもある都田川ダムは、いなさ湖をダム湖としています。そのためいなさ湖周辺の環境や水質には格別の注意が払われ、厳しく管理されています。当コースにおいても自治体との協定により水質検査が年4回実施されているため、農薬の使用量についてはできるかぎり抑えるよう努力を重ねています。現在は年間で県平均使用量の半量ほどの使用量です。」と塩沢暢一グリーンキーパー。減農薬に取り組まざるを得ない状況だったため、様々な工夫を重ねてきた。
「とにかく色々なところから最新の情報を集める工夫をしています。販売代理店さんからの情報はもちろん、他のキーパーさんとの情報交換や、他のコースを拝見する機会も多く作るようにしています。いいグリーンだなと感じたら、どんな方法で管理されているかを逐一伺うんです。」
そんな中で出会ったものの一つがバイオ資材だ。同コースでは継続的に【ブンカイザー】を用いて未分解サッチの処理を行っている。
10年前くらいから土壌そのものの健康度をあげていくことを意識したメンテナンスを始めました。対症療法からの脱却をはかり、減農薬・減肥料でも美しく強い芝を作るためです。酵母菌などを投与したりするなか、どうしてもグリーンが柔らかくなってしまう傾向があって、その原因として未分解サッチが考えられました。そこでサッチの分解を促しながら環境に優しい資材を探していたところ、カスタム東海㈱の杉山さんから【ブンカイザー】を提案されたんです。」
他コースで【ブンカイザー】を使っているキーパーからも話を聞いたという。
「多めに入れたら、芝がふんわりと立ってきたとおっしゃるキーパーさんもいました。正直、当コースではそこまで劇的な変化は見られなかったのですが、【ブンカイザー】を投入してから土壌の締まりがよくなってきたので、継続して使っています。」
「好気性土壌」をめざし様々な角度からアプローチを試みる
塩沢氏は土壌の質をあげるために様々な対策を実行しているが、透水性と通気性には絶えず気を配っている。
「まずパーミアテストで現場透水性と土壌通気性をチェックしていきます。また来場者の少なくなる2月末から3月の時期を見計らって、毎年ソイルサンプラーをとって土壌分析を行っています。目標としているのは、未分解有機物を減らし、放線菌や酵母菌によって有機物を分解できるような好気性土壌にすることです。【Dr.芝用補酵素】を使った土壌改良も進めています。」
もちろん薬剤の量を減らすための根本的な工夫は怠らない。
「結局大きな面積のほうが薬剤散布量も増えますから、2002年からはフェアウェイの排水回路をよくするために集中的に暗渠排水工事を行っています。やはり透水性と通気性を良くすることが良い土壌の基本条件だと思っています。」
そして日常のエアレーションや砂入れにも工夫を重ねている。
「十字タインを使ったフォーキングで、なるべく表面に凹凸が目立たないようにしながら、通気性と透水性を確保するように心がけています。目砂に関しては、その形状、性質、量で、土壌の締まり具合や芝草の固さが変化するので、気を遣っています。いまちょっと心配しているのは天竜川水系の上流の砂と下流の砂をミックスして使っていること。後々、離層にならないように今のうちに手を打っておきたいなと考えています。」
キーパー仲間の情報をもとに、刈り込んだ後にスイーパーをかけたり、刈り込みの回数を増やすことによって虫の発生を防ぐという方法も試している。
「いまはラフやフェアウェイでは刈り込んだ後にブロアーで散らしてバチルス菌含有肥料を撒くという一連の流れができています。余分な肥料も入れません。これを実施するようになってから虫の大量発生もないですね。ある程度地層の循環と虫のコントロールが出来てきているのかなと思っています。」
夏場の対処とダラースポットの発生をいかに抑えるかが課題
コース管理にたずさわる人を悩ますのが近年の夏の酷暑である。芝の焼けは防げても、虫の発生や病気など、グリーンキーパーの悩みはつきることがない。
「いま当コースのグリーンにはベントグラスのクレンショーを使っています。夏の暑さに強く、それが持ち味でもあるのですが、ダラースポットが出来やすいのが悩みです。農薬の量をだんだん減らす傾向にありますから、ダラースポットの発生をどう抑えていくかはこれからの大きな課題です。」
芝の品種によりダラースポットの出方に大きな差があるので、それも現在研究中だという。
「あとは、刈り込む時の菌の感染に気をつけています。グリーンモアのカッターの刃についた菌が他に伝染していくことがあるからです。ただ、同じように刈り込んでいるのに、伝染しやすい時と全く平気な時があるので、この違いはどこから来るのかその原因が分かれば効果的な予防対策を行うことが出来るのに、と思いますね。」
さらに塩沢キーパーを悩ますのが雨が続いた時の芝の状態だ。
「夏場の長雨で急激に芝が伸びてしまい、なかなかコントロールが利かない時があって困っています。植物成長調整剤を使わずに芝の生長を抑制したいと考えていて、【New SK酵素】などのバイオビジネス普及会資材の投入も検討しているところです。
また、今年は7〜8月にかけて、ムク刃タインを使ってのスパイキングを試そうと思っています。その後に砂入れをして面の維持が可能か、さらにそれによって浸透剤の量を減らせるか、夏場の焼けに対応できるかを見極めていきたいと考えています。万が一落ち込んでしまった場合には【夏の活緑】を投入して対処したいと思います。」
誰もが楽しめるグリーンのクオリティーに向け、探究心を持ち続ける
塩沢キーパーが最終的にめざすのはラインがきれいなコースだという。
「やはり細かなエッジラインをきれいに出したいですね。バンカーのエッジのライン、グリーンのエッジのライン、道路とラフの境のライン。そういうラインを作っていきたいと思っているのですが、現実はまだその手前の作業に追われている状態です。ラフに病気が出たとか、あそこのグリーンに目砂を入れなきゃ、とか。」
クオリティが高いグリーンは見た目も美しいし、プレーしてもコンディションがいい。
「見た目がきれいなグリーンは作れても、プレーして納得できるようなグリーンを作るのは難しいと感じています。トーナメントを行っているグリーンを見ると、やはり盤の固さや芝の固さにこだわりがあるのがわかります。まだまだだなと思ってしまいますね。」
しかし、ほどよい距離感でメンテナンスしていくこともキーパーにとっては大切だと考えている。
「グリーンキーパーの仕事は、あまりつきつめて考えてしまうと、どうしてもゆとりがなくなって極端な対処に落ち入りがちです。その結果、逆に芝のコンディションを悪くしてしまうこともあり得る。ちょっと一歩引いて、なんとかなる、と自分に言い聞かせながら、俯瞰的に物事をとらえ対策を講じることが大事ではないかと思っています。その上で、プロの方にも一般の方にも納得してもらえるようなクオリティの高いグリーンを作っていきたいですね。」
この仕事に就いて20年、塩沢グリーンキーパーの飽くなき挑戦は続く。
代理店:カスタム東海株式会社
専務 杉山敏明
いなさゴルフ倶楽部さんとのおつきあいは17年前に遡ります。塩沢キーパーは好奇心旺盛な方で、こちらも様々な提案をさせていただいています。やはり夏場の種々の対処は大きな課題となっていますので、酵素や補酵素、ミネラルを中心としたメンテナンスのお手伝いをさせていただければと考えています。