大和不動カントリー倶楽部
グリーンキーパー 久原(くはら)丈幸氏
佐賀県の中央に位置し、佐賀平野から有明海、雲仙、普賢岳にいたるまで見渡せる丘陵地に18ホールを展開する大和不動カントリー倶楽部。年間5万人を超えるプレイヤーが訪れる人気のコースを管理するのが久原丈幸グリーンキーパーだ。様々な制約を抱えた中でも、お客さまの満足度を高めるコース作りに誠心誠意向き合っている。
高麗グリーンからベントグリーンへの切り替え・改造の壁に突き当たる
ゴルフ場のコース管理の仕事に就いて四半世紀。グリーンキーパーとしてのキャリアは10年を超える。大和不動カントリー倶楽部のコースを担当するようになったのは5年前だが、以来奮闘の連続だったことをあかす。
「私が赴任する前、2008年の秋にグリーンの高麗芝をわざと枯らして、ペンクロス、ドミネント、T-1の3種混合で播種し、ベントグラスへの草種転換を図ったんです。高麗芝は除草剤で処理したようですが、その残効性が強かったのか、転換した品種の生育が思わしくありませんでした。発芽はするけども芽立ちがなかなか揃わないような状況が続きました。私は赴任後、それぞれのホールの状況に合わせ、陽当たりや風通し、透水性などを勘案しながら、適宜必要な対策を考え調整していきました。」
その調整作業は2年ほど続いた。相応に落ちついた芝を眺めながら、なにか根本的な対策を立てなければ、という思いにかられたという。
「ベントグラスへの草種転換によって、一種の悪循環に陥ったのではないかと思ったのです。除草剤を使用したときの残効性で芽立ちが悪い、すると今度は芽立ちを助長するために肥料を大量投入することになる。しかも草種転換前の高麗芝の枯れ滓が土中にブラックレイヤーとして残ったままで不透水層を形成しているようでした。」
ブラックレイヤーを除き、土壌の状態を元に戻さなければ、果てしない悪循環が起こりそうな気配があった。
「ブラックレイヤーがドライスポットの原因になったり、夏には硫化水素ガスが発生することもあったりで…エアレーションだけに頼っていても埒があかない。ドレーンによって一時的に芝の状態が改善してもすぐに戻ってしまう、という状況でした。」
もう一度ピュアな土壌を取り戻すために
ともかく現状の土壌の状態をしっかり把握することが先決だと久原氏は考えたという。
「ピュアな土壌にするためには、まず今の土壌の状態を知り、必要なことと不必要なことをはっきりさせること。それをもとに対策を講じることが、一見回り道のようでも最善の選択だと思いました。」
2013年に行った土壌検査の結果わかったのはリン酸値が異常に高かったことだ。加えて有機物含有量や残留農薬の影響で亜鉛・鉄の数値も高かった。
「過剰な施肥が影響していると考えられました。土中にリン酸が過剰に残って、バランスの悪い疲弊した土壌になっていたのです。まず有機物含有量やリン酸の値を下げることが必要でした。そんなときに知り合いのキーパーさんから沼田さんを紹介してもらったんです。」
久原氏は佐賀県グリーンキーパーズ協会の会長も務めるが、同協会のメンバーは交流が盛んで情報交換も頻繁に行っている。紹介された沼田貴人氏は(株)栗山建設のスポーツターフ事業部長を務めており、土木施工管理技士や造園施工管理技士の資格を持つスペシャリストだ。
「沼田さんとの話のなかで、私が考えていたことにピッタリだと感じたのが【ブンカイザー】なんです。酵素が上手く働けば、副作用を気にせずに高麗芝の枯れ滓、枯れ根に対処できるのでは、と期待を持ちました。」
さらにリン酸過多や酸性に傾いていた土壌に対しては、有機酸キレート剤である【有機酸1番搾り】を投入し、芝の代謝促進と土壌改良を同時に行った。1年後の土壌検査の数値はこれらの効果を如実に物語る結果となった。
土壌分析結果
分析日 | 有機物含量 | リン酸 | pH | 鉄 | 亜鉛 |
2013年4月24日 |
2.5% |
192ppm |
5.3 |
71ppm |
10.6ppm |
2014年3月6日 |
1.9% |
89ppm |
5.6 |
68ppm |
9.0ppm |
「ピュアな土壌の状態に近づいていると思います。私たちグリーンキーパーは、常にプレーできるコース状態に整えることが役目ですから、資材投入によるアクシデントは一番怖い。その点、バイオ製品は安心感がありますね。」
過ちを繰り返さず、良質の芝を保つ工夫を重ねる
久原氏が赴任してから、コースの設備も変化してきた。散水に関していえば、水源を確保し、スプリンクラーの数を増やし、位置も細かく調整するなど、最適な散水効果を目指して工夫を重ねている。毎日つける日報にも久原氏ならではの工夫がある。
「日々勉強だし、同じ過ちは繰り返さない、というのが私の中の戒めなんです。パソコンでつけている日報は、前年のものを上書きしながら使います。特に問題が起きやすい夏などは、何番のどの箇所にドライスポットができたとか、透水性が非常に悪くなっているなどという情報が赤枠で囲まれて記載されています。それを見て、昨年の状況を思い出しながら同じ過ちを繰り返さないように今年の対策を早めに立てているんです。」
現在バイオ製品は資材全体の6割を占めるという。夏の病気(生理障害)や冬のアントシア(ニ)ン対策には【夏の活緑】【冬の活緑】を用いて、芝の蓄積糖分を増加させる対策も取り入れ始めた。
「ブンカイザーによって良い効果が得られたことで、バイオ製品に対する理解が得られ、予算がつくようになってきました。今後も他の資材との兼ね合いを考えながら、最適な投入の仕方を考えていきたいと思います。」
現実と向き合い、コース作りの折り合いをつけていく
グリーンキーパーは一種孤独な職人だと、久原氏はいう。
「やはりコース管理の責任者というポジションは重いものがあります。毎日がプレッシャーとの戦いと言っても過言ではありません。もちろん、ともに働くスタッフはいますけど、彼らに愚痴るわけにはいきません。不安感を与えてしまいますからね。」
悩みを話すのは過去にお世話になった先輩グリーンキーパーやグリーンキーパーズ協会の仲間たち。
「こういうつながりは非常に有り難いと思っています。先輩たちからは様々なことが学べますし、キーパー仲間からは今回の土壌改善の事案のように解決につながる情報をもらえたりする。そこから沼田さんのような優秀な業者さんとのつながりもできたりするわけで、私はラッキーだと思いますよ。」
とはいえ、常にジレンマを抱えてしまうのは職業柄だ。
「潤沢な予算があるわけではありませんから、機材や資材の投入に関してはコストパフォーマンスをじっくりと検討します。限られた予算の中で何を優先すべきか、というのはいつも大きな悩みどころです。でも、品質管理というのはお金をかければいいものができるとは限りません。それに技術的なことってほんの些細なことでも大きな差が出ることがあったりしますから、少ない予算で大きな効果を出すことも不可能ではないんです。そこがこの仕事の面白さであり難しいところなんですが。」
県大会の予選などが行われる時は、スティンプ・メーターの計測で11ft前後の数値を目標にグリーンコンディションを作ることもある。しかし、年間5万人を超えるプレイヤーが訪れるため、優先するのはそうしたスピードクオリティよりも芝の確保、維持だという。
「早いグリーンコンディションにした時に、メンバーさんの評判がいいからもう少しその状態でプレーさせて、とクラブハウスから要望が出ることがあります。一週間程度はその要望にお応えすることもありますが、あまり長引くとグリーンの状態が悪化することも考えられるので、様子を見ながら更新作業をしていきます。」
日々の仕事に対して誠心誠意向き合う久原氏だが、グリーンキーパーへの注目度に関してはあくまで控えめだ。
「名人級のグリーンキーパーを芸術家のごとく讃える人がいるけど、私はそれはちょっと違うと思っています。ゴルフコースはお客様にプレーしていただいてなんぼの世界。芸術作品を作るのとはわけが違うんです。たくさんのお客様に来ていただいて初めて経営が成り立つわけですから。コース管理ひとつで経営がよくも悪くもなる、という自覚は常に持たなければと思いますね。」
そして、お客様からの嬉しい一言が仕事への活力へつながると話す。
「『いいグリーンだね。今度友達を連れてプレーするよ。』と言っていただいた時など、この仕事を続けていて本当に良かったなと思いますよ。」
そんなたくさんのお客様のために、今日も久原氏はコースをあますところなく点検している。
(株)栗山建設スポーツターフ事業部 沼田 貴人氏
久原さんとの出会いは福岡センチュリーゴルフ倶楽部の野見山キーパーからの紹介でした。
ちょうど1年前、色々と話しているうちに久原さんの考えていた土壌改善方法と弊社の推進している【バイオメンテナンス】とが一致しました。最初に実施したことは、資材使用前に土壌分析を実施することでした。まずは、現在の土壌の状態を把握して、この状況を打開するにはどの資材をどの時期にどの量で散布するか、そして1年後、3年後にどのような状態に持っていくかを話し合いシミュレーションしました。バイオメンテナンスを導入してから、このコースはまだ1年ほどですが、1年後に実施した土壌分析では、結果が顕著に現われています。土壌改良材的な資材は結果が目に見えづらいのが難点ですが、データとして結果が現われることで継続する意味を見いだせると思います。
久原さんはコース管理内では兄貴分的な存在で、クラブハウスやメンバーさんからの信頼も厚く、非常に勉強熱心な方です。毎日つけている作業日誌には、主に失敗した出来事を書き連ねています。同じ失敗を二度繰り返さないようにする久原さんの向上心には脱帽します。
久原さんのような向上心を持ったキーパーさん達との出会いで、私自身もやりがいを感じますし、勉強にもなっています。今後、バイオメンテナンスが九州全土に普及し、悩みを持ったキーパーさんたちの手助けになれるよう、日々精進していく次第です。