JFE瀬戸内海ゴルフ俱楽部
グリーンキーパー 山内徳蔵氏
全英オープンへの出場権をかけた大舞台、ミズノオープン。その開催地であるJFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部は、スコットランドのゴルフコースを彷彿とさせる海沿いの本格的なリンクスタイプコースだ。コース全体を見渡せる開放感と戦略性の高さでプレーヤーの耳目を集める。コース管理を統括するのは山内徳蔵グリーンキーパー。年間を通じて降水量が少なく日射量の多い瀬戸内式気候のため激しい乾燥が芝を襲うが、綿密な散水計画と土壌改善でトーナメントにふさわしいトップクオリティを作り上げている。
少しの油断がまたたく間に芝を枯らす。散水計画は命綱。
晴れの国と称される岡山県は年間の降水量が少ない。グリーンキーパーの山内徳蔵氏が特に気を配るのは芝の乾燥だ。
「瀬戸内特有の乾燥した気候のため、水分対策を非常に重要視しています。製鉄所用の工業用水をパイプラインで送水してもらい、700カ所にスプリンクラーを設置するなど、設備は充実しているのですが、乾燥しているので散水してもすぐに水分が抜けてしまうことも多いのです。 現在はイリゲーション(灌水)の専任者をおいて散水管理をしています。散水計画の設定は私がしますが、設備の維持管理や散水強度の調整を専任者が行うことで、全体的に均一でムリ・ムダ・ムラのない効果的な散水が実現できています。」
駆け出しの頃はちょっとした油断で夏場に芝を枯らしてしまったこともあるという山内氏。乾燥対策はこのコースの命綱と言い切る。
「常に散水をして乾燥を防ぐというだけならばそう難しくはないのですが、実際は同じグリーンの中でも水分が溜まりやすいところと、少しでも水分が不足すると焼けてしまうようなところが混在しています。その要求度を見極めて散水しないと、均一な良い仕上がりの芝にはなりません。」
常に高いレベルで適正な散水を実現できるよう、スタッフ教育も怠らない。
「専任のイリゲーション担当の他に、散水技術者と言ってもいいくらい、水のコントロールに長けたスタッフが数名います。ここではコースの形状を理解してホース散水ができるスタッフが絶対的に必要です。冬場でもかなり乾燥しますので、年間を通じた散水のコントロールが欠かせないのです。」
水質改善にも土壌改善にも欠かせないバイオ資材
豊富な工業用水から送水してもらっているおかげで水源には不自由しないが、水質には課題がある。
「pH10くらいの強アルカリの水なんです。これをpH5〜6程度の弱酸性にして植物に適した水素イオン濃度にしないとなりません。バイオビジネス普及会のバイオ資材は酸性のものが多いため、これを投入することで土壌のpHが理想的な数値に保たれます。」
バイオ資材の中でも効果が多面的な点で、山内氏が気に入っているのが【Dr.芝用補酵素】だ。
「【Dr.芝用補酵素】は使い勝手がよく費用対効果が高い。通常は、発色を良くするために鉄材、pHを調整するために酸性資材、というふうに1資材1役ですが、【Dr.芝用補酵素】は複数の問題に1種類で対応できる。継続使用する事で、芝が密になる事での藻や苔への対策、微量な要素の補給、葉の色出し、細菌病り患時の症状の軽減など、マルチな成果が出ています。」
山内氏が重要視するのは【Dr.芝用補酵素】に含まれる微量のミネラル要素だという。
「含有する鉄以外の、ミネラル要素の量が微量というところが大きなポイントです。微量だと土壌の自浄作用によって成分が失われるため残留しません。光合成活性を高めつつ、芝が密になる事で、藻や苔、細菌病害の発生も抑えながら、それでいて土壌には残留しないので、頻繁に用いることが可能なんです。ミネラル要素の含有率が高いと、土壌への残留の影響を考慮し、年に数回しか使えません。」
また、昨年からは【バイオHG】も使用し始めた。
「いままでは基礎的な力をあげることを目標にしてきましたが、これから先はよりクオリティを上げるために何が必要かというところに焦点を当てていきたいと考えています。その答えの1つが【バイオHG】。ケイ酸を含んでいるので、芝を固くし、倒れた芝を起こすような働きがあります。トーナメント後などは特に芝が傷みますから、【バイオHG】を使うことで品質維持を心がけています。」
トーナメントクオリティを出すための冬の準備
プロゴルファーをめざしてトレーニングしていた経験もある山内氏は、「プレーヤーのためのグリーン」にこだわる。
「グリーンはあくまでボールを転がすために存在するものですから、転がらないグリーンは価値がないと思います。このコースでは年間通じて240日10ftを目標にしています。この10ftという早さは一番お客様に喜ばれます。9ft以下だと面白くないし、逆に11ft以上になると転がりすぎて難しいと感じられるからです。」
とは言え、5月末のミズノオープンのコンディション目当てのプレーヤーも少なくない。
「5月の連休あたりから、ミズノオープンを期待されるお客様がいらっしゃいますので、連休明けから11ftに近いクオリティを作っています。そこから徐々にクオリティを上げて、トーナメントでは12〜13ftのスピードに仕上げます。」
トーナメント時のクオリティを出すために必要なのが、冬場の活性対策だという。
「冬期の芝の活性を保つために【冬の活緑】を必ず使うようにしています。昨年からはそれに加え、1月〜4月まで毎月1、2回の頻度で【バイオHG】を与えています。冬の準備を怠れば大きなダメージになりますから。」
もちろん重要視するのは資材の投入だけではない。山内氏は更新作業にも人一倍熱心に取り組んでいる。
「植物を育てるという意味においては、芝作りは農業と同じ面があると思っています。土壌が還元状態になって酸素不足になれば、いくら肥料をやっても根が吸収しません。ですから、優秀な先輩キーパーから教わった方法で更新作業を積極的に行っています。田畑を耕耘するのと同様にコアリングを行って、気層、液層、固層を適正な割合で維持する。年間18%の更新が理想なのですが、営業との兼ね合いでそこまでは難しく、現在は14%程度の更新にとどまっています。18%更新できれば、基礎性能、つまり6、7mmの雨が降ってもボールが転がっていくような透水コンディションを維持できるようになるので、なんとかそこまで持っていきたいですね。」
山内氏は、晴れの国にありながら、どのような天気でもプレーできるコンディションを追求している。
これからのコース作りには新たな試みやマーケティングも必要
山内氏がめざすグリーンは“適度な健全性”を持ったグリーンだ。
「クオリティを優先するか、芝の健全性を優先するか、色々な考え方があって全国のキーパーは悩んでいると思います。芝が健全すぎるとパッティング・クオリティが下がるし、かといって緑が弱々しい芝では見た目もみすぼらしい。真緑で早いグリーンが理想ですが、現実には不可能ですから、適度な緑、適度な強さの絶妙なバランスで整えたいと思っています。」
絶妙なバランス実現のために、新たなやり方を模索することも少なくない。
「【ブンカイザー】の与え方を変えてみて試したことがありました。規定量を毎月撒いていくやり方から、濃いめにして年4回撒くやりかたに変えてみたんです。効きがよくなるかなと思って。結果的には透水係数はさほど変らず、逆に薄めに毎月撒いたほうが安定することがわかりました。濃いめで回数を少なくすると、水はけの良い時期と悪い時期のムラが出るんですね。」
ホットする話し
資材のやり方ばかりではなく、最近はヤギの飼育を始めた。
「近年ヤギによる除草が注目を集めていますよね。広い敷地に放牧したり、マンションで共同飼育したりとエコな除草が広まっています。その時流に乗るというわけでもないのですが、ゴルフ場に雑草はつきものですから、何か役立てられないかと思い、ヤギを2頭飼い始めたんです。」
14番ショートホールの脇につないでおくとちょっとした話題の提供にもなる。
「お客様が喜んでくださいますね。いまは試用期間なので2頭だけで、広いコースの除草をするにはとても足りないのですが、嬉しい誤算は葛を好んで食べることです。葛のツルははびこるのが早く除草もしにくいですが、これをヤギが退治してくれるのがありがたい。」
そして、いまは後進を育てながら、次のステージを模索する山内氏。
「仕事の内容やコストのかけ方を含め、徐々に現場を任せられるよう、若手を育てています。彼らに現場を任せ、私自身は集客やマーケティングといった売上を伸ばす仕事にたずさわっていきたいと考えている最中です。」
山内氏はより広い視野で将来のコース管理を見据えている。
代理店:アサヒカワ株式会社
環境サービス事業部 鈴木茂
山内キーパーとは10年来のおつきあい。いつも研究熱心でインテリジェンスを感じる方です。資材の成分等に関してもプロ顔負けの知識をお持ちなので、こちらも緊張しながら、色々なバイオ資材のご提案をさせていただいています。コース管理の要である700カ所のスプリンクラーのコントローラーを納入させていただいたのも当社の大きな実績。これからもトップクオリティの芝作りをサポートできるよう努力を重ねていきます。