さくらんぼカントリークラブ
コース管理部長 天野 幸雄 氏
さくらんぼカントリークラブは、雄大な最上川の流れを眼下に、遠く月山を望む絶景の丘陵コースである。名プロデューサー大西久光氏によって設計された自然のダイナミズムを生かした戦略的なコースで、山形県内で最も高い73.5*というコースレートを誇る。2006年からコース管理の責任者として優れたコンディションを作り上げているのが、この道20年のベテラン、天野幸雄グリーンキーパーだ。冬は雪に閉ざされ、夏は高温にさらされる厳しい気候条件のもと、常に挑戦の気持ちを忘れずに芝と向き合っている。
* 2015年5月時点。ゴルフ場ランキング倶楽部調べ
コース閉鎖期間を利用してサッチの分解を進める
さくらんぼカントリークラブがある山形県村山市は、冬は深い雪に覆われ、夏はフェーン現象で高温多湿になる。
「冬は積雪が2メートルくらいになりますので、12月半ばから3月末まではコースを閉鎖します。逆に夏季は蒸し暑く、真夏日が何日も続くこともありますので、芝種の選定ひとつにも悩んでしまう気候です。」と天野幸雄氏。
コース閉鎖は経営上には痛手にはなるものの、その期間を利用したメンテナンスに利用できると語る。
「雪に覆われているあいだにサッチの分解を促進させています。毎年、11月の末にコアリングを行った後、【ブンカイザー】を1㎡あたり1.5〜2gを投入します。厚い積雪層が断熱材の役割をするため、冬でもさほど地温は下がらず、これが酵素の活性によい影響を与えるようです。このコースにとって、いまや冬期の【ブンカイザー】使用はかかせないものになっています。これによって雪融け時の芝は青々としますし、夏場のサッチが少なくなり水はけもよくなります。」
気候の特質をとらえ、フェアウエーをノシバに変更
気候に留意してメンテナンスを工夫する日々だが、30年に1度の異常気象といわれた2010年の猛暑の際は、フェアウエーの寒地型の芝が枯死してしまったという。
「雨が少なく、30℃を越える真夏日が延々と続いたんです。病気でしたら対処もできますが、異常気象が相手ではどうしようもありません。この年は、同じような状況に陥ったコースが全国にたくさんあり、芝が市場で不足するほどでしたね。」
このダメージからどう回復させるか、そして芝生の種類をどうするかについて天野氏は悩んだ。
「寒地型の芝では、この地特有の蒸し暑い夏には適応していけない。かといって、寒さに対する耐性も必要です。サッチの集積が少なくメンテナンスがしやすいこと、また長期的にみてコストパフォーマンスに優れていることなどを勘案し、ノシバという選択をしました。」
最初に4万㎡ほどの張り芝を行い、その後にゾイシアグラス・コンパドーレを播種した。
「ゾイシアグラス・コンパドーレは、ノシバの中では葉の幅が細く、きめも細かいのでフェアウエーには最適だと思いました。冬季の色落ちはありますが、3カ月半の閉鎖期間もあるので、気になるほどではありません。」
とはいえ、ノシバを播種した後はメヒシバがはびこり、社長以下クラブスタッフが総出で草むしりを行ったこともあったという。
「雑草処理は思ったより手間がかかりましたが、その後は順調に根づいてくれました。ノシバを種から育て根づかせたのは、山形ではこのコースが初めてなんです。ノシバが発芽するには、最低気温が下がりすぎないような気候条件が必要で、ここの気候があっていたのでしょう。迷いもありましたが、今は夏場の心配が減ったので、ノシバにして本当によかったと思っています。」
ベント芝ワングリーンはこだわりの証
バイオビジネス普及会の資材を使い始めたきっかけはアグリ仙台㈱の菊地修氏のアドバイス。最初に使い始めたのは【バイオ補酵素】だ。
「以前はグリーンの土壌のpHを適切に保つために鉄材を単独で用いていました。ところが、菊地さんから【バイオ補酵素】を紹介され、鉄だけではなく、酵素や補酵素が働くので、芝草の活性化、土壌改良に広く効果があるのではないかと思い、使い始めたのです。グリーンには葉が立ちやすいドミネント芝を使用しているのですが、【バイオ補酵素】を使うようになってから、一層パリっとするようになり、葉色も鮮やかになってきました。」
スピードが出るドミネント芝だが、夏の暑さに強いとは言えず、管理面の苦労は少なくない。
「ここのコースは戦略性が高いことが持ち味の一つ。気候条件と管理面を考えれば、ツーグリーンという発想もあるのですが、やはり競技志向のお客様を満足させるコースでありたいですから、ワングリーンにこだわります。適切なメンテナンスを行い、適切な資材を使用することで、プレーヤーの意欲をかきたてるコースを作りたいのです。」
最近では、フェアウエーのノシバの芽出しを良くするためにも【バイオ補酵素】を用いるという。
「ノシバは冬季に入ると休眠しますので、春先は真っ白い状態です。そこに【バイオ補酵素】を投入すると、翌日くらいには鉄イオンの作用で黒くなってくるんです。それで光合成が促進され、芽出しが早くなります。また、秋には色が抜ける少し前に投入することで、色落ちを先延ばしすることができるので、意外に冬枯れを意識する時期は短いんです。」
メリハリのあるコース作りでつかむ手応え
数十年にわたり芝作りと向き合ってきた天野氏だが、「ようやく自分なりの手応えがつかめるようになったのはここ数年」と、あくまで謙虚な姿勢を崩さない。
「自分の思うようなコース作りのコントロールができてきたなと感じるのはここ最近です。大会に照準を合わせ、思ったようにグリーンのスピードを出すことができたり、コンパクションを作ることができたりしたときは、この仕事の醍醐味を感じますね。」
こうした地道な努力にプレーヤーも鋭く反応する。
「コースを見回っていると、『最近グリーンが少し柔らかい』などと具体的なご指摘をいただくこともあります。競技志向のお客様は変化に敏感です。2年前からは土壌の改良を目的に【Dr.芝用補酵素】も使用していますが、結果として芝目が密になる事で、カタビラなどが抑制されてきたのとともに『ボールの転がりがよくなった』と評判がいいんです。」
こうした競技志向のプレーヤーを満足させることはもちろん、初心者にも楽しんでもらえるような工夫をしたいと天野氏は語る。
「老若男女すべての方々に楽しんでいただきたいので、様々なイベントも企画しています。また、最近は花の植栽にも力を入れており、季節ごとに違う花でお客様をお迎えするようにしています。女性プレーヤーには特に評判がいいですね。」
景観という点では、2010年の猛暑ですっかり葉が落ち、枝も大きなダメージを受けた樹木類のメンテナンスにもとりかかっている。
「ケヤキやカエデもなんとか幹だけが残っている状態なので、いま樹木医の先生に見てもらい、対策を考えているところです。山河の遠景もさることながら、樹木の景観もコースにとって大切なことですから。」
グリーンキーパーとなって9年が経つ天野氏だが、天候の特徴は毎年変化し、その振り幅も大きいため、その年によって、メンテナンスの仕方は大きく異なるという。
「私自身にとってはたかだか9年という気持ちです。近頃は天候不順が顕著ですので、前年のデータや手順をそのまま今年に生かすということが不可能です。経験値がそのままでは通用しないのです。」
いまだ試行錯誤することもしばしばだ。そのなかで、効果的だと思われる方法は積極的に取り入れながら、コースを作っていく。
「夏場のグリーンをさらに元気にするために、今年の夏からは【夏の活緑】と【Dr.芝用補酵素】を組み合わせて使ってみようと考えています。成分や機能を考えるとこの組み合わせが一番いいような気がするので。」
さまざまな経験の中から自分の勘を磨き、いま、天野氏が目指すのはメリハリのあるコース作りだ。
「コースとフェアウエーの境、フェアウエーとラフの境がくっきりとしているようなコースがベストだと思っています。ですから手入れの際には、グリーンエッジなどには特に注意を払って刈るよう指示を出しています。」
「スピードを出すために単に低く刈ればいいというものでもないし、散水にも知恵を絞らないと水が足りなくなる。次から次へと課題と挑戦が生まれ、この仕事にはこれでいいということがありません。だからこそ面白さがあるんです。」
新しいことを取り入れる姿勢とリスクを恐れずに挑戦する気概をもって、天野グリーキーパーは理想のコース作りに突き進んでいる。
代理店:アグリ仙台株式会社
代表取締役 菊池修
天野キーパーとは20年来のおつきあい。何事も地道に努力される方です。2010年の干ばつの後にノシバに入れ替えたのは本当に英断だと思います。コースレート面でもポテンシャルの高いコースですから、今後もいろいろ提案をさせていただければと考えています。