PCR法・遺伝子診断を民間機関に任せよという論調が増えています。

一番の問題点は、「法定伝染病」や「変異型ウィルス」などの取扱い上の問題です。世の中は、善意だけではないのです。「テロ」にも使われることも想定しておかなければなりません。オーム真理教が「炭疽病菌」をバラ撒いた事件を思い出して下さい。取扱い、事後処理などの法整備も必要なのです。

二番目の問題は、今迄ウィルスの大流行で困った地域以外では準備が無いことです。同じコロナウィルスであるSARS(サーズ)ウィルスやMERS(マーズ)ウィルスの感染拡大国には準備がありましたので、中国や韓国の対応は迅速でした。これに対して、日本の検査体制は非常に脆弱でした。ウィルス対策の非常時以外には、必要性が低いのです。

三番目の問題点は、検査に要する時間がかかりすぎることです。PCAとは、Polymerase Chain Reactionの略語で、「ポリメラーゼ連鎖反応」のことを言います。この検査は前処理に時間がかかりすぎるのです。反応チューブの中に、①鋳型のDNAないしRNAを準備 ②DNAポリメラーゼがDNAの合成に際してプライマーを必要とし、このプライマーから5’→3’の方向にDNAを合成していくということを利用して、DNAの体鎖への変性(94℃)、プライマーの結合(55℃)、耐熱性DNAポリメラーゼによる相補鎖の合成(72℃)というサイクルを何度も繰り返すことにより、目的の遺伝子領域(ゲノム)を増幅します。遺伝子の抽出作業に1件体で1時間、検査機の検査に2時間かかります。1人の検査員が1日にこなせるのが30件程度なのです。

 四番目の問題点は、校正機能が無いことです。5’→3’の方向にエキソヌクレアーゼの活性が無い場合などの補正機能が無いことです。しかも、DNAの長さが長くなるにつれて塩基の取込みエラーが出やすくなることです。この他にも、プライマーダイマーの形成、プライマーの保存、リアルタイムPCR阻害、反応効率の低下、ソフトウェアーの解析設定などの困難性があります。

五番目の問題点は、検査上に「活性ウィルス」と「不活性ウィルス」の判別が困難なことです。どちらもカウントされてしまうのです。

このように、コンタミネーションの汚染の影響が大きい、酵素の失活が検査結果に大きな影響を与える、鋳型になるDNA採取に正確性が求められる、等々の信頼性の問題と検査に時間がかかりすぎるという難点があります。